九州大学シンクトロン光利用研究センター

Brief Report

XAFS測定を利用したAuクラスター担持LDHナノシート電極触媒における活性向上メカニズムの解明

カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所
教授 山内美穂

教授 山内美穂

カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所
学術研究員 北野翔

学術研究員 北野翔

研究内容

 水素源あるいは電子源として水を用いる電気化学反応による二酸化炭素の発生のない環境調和型の物質合成プロセスでは、アノードにおいて水を酸化して電子を取り出し、酸素を発生させる反応(Oxygen Evolution Reaction, OER, 式(1))を高効率に行うことが必要になります(図1)。しかしながら、OERでは、一つの水分子から4つの電子を引き離すために、理論電位である1.23 V vs RHEを大きく超える過剰な電圧(過電圧)の印加を必要とすることが大きな問題となっています。

2H2O → 4H+ + 4e- + O2 1.23 V vs RHE (1)

 近年、高活性なOER触媒として、2価と3価の金属イオンを含む水酸化物ナノシートと層間水および層間アニオンで構成される層状複水酸化物(LDH)が注目を集めており(図2)、特に、Ni2+とFe3+を含むLDHを剥離して作る水酸化物ナノシートがOERに高い活性を示すことが報告されています。本研究では、LDHのさらなる活性の向上を目指し、新規にAuクラスター担持LDHナノシートを作製しました。STEM観察より、ナノシート上には、直径1 nm程度の非常に小さいAuクラスターがナノシート表面に均一に分散して存在していることが明らかになりました。この、Auクラスター担持LDHナノシートをOER反応に用いたところ、反応開始に必要な過電圧が、ナノシートのみの場合よりも劇的に減少することが明らかになりました(図3)。

 次に、Auクラスターの担持前後でのLDHの電子状態の変化から過電圧低減のメカニズムの解明をするため、放射光を利用したXAFS測定を行いました。NiおよびFe K端におけるXANES測定により、ナノシートは、Ni2+、Fe3+で構成される水酸化物の構造を有することがわかりました。クラスター担持前後のLDHナノシートのNi、Fe K端のXANESスペクトルを図4a、bに示します。クラスター担持前後においてNi K端のXANESスペクトルはほとんど変化しないのに対し(図4a)、Fe K端では、Auクラスターの担持により吸収スペクトルが低エネルギー側へシフトしたことから(図4b)、ナノシート内のFeイオンはクラスター担持により還元された状態に変化することがわかりました。次に、Auクラスター担持ナノシートとAuクラスターのみのAu L3端のXANESスペクトルを図4cに示します。Auクラスターはバルクの金箔とほぼ同様エネルギー位置に吸収端を示すことから、0価の金属状態であることがわかりました。一方、担持後の試料のスペクトルには、酸化物に特有のホワイトラインが観測されたことから、担持されたAuクラスターはより酸化された状態になっていることが明らかとなりました。これらの結果は、Auからナノシート上のFe3+イオンへの電荷移動が起こることを示唆しています。これまでに、OERにおけるLDHナノシートの活性点はFe3+イオン上にあることが報告されています。したがって、Auクラスターの担持によってFe3+イオンが還元されることにより、LDHナノシートと反応中間体との結合エネルギーが変化し、過電圧が減少すると考えられます。本研究では、放射光を使ったXAFS測定により、Auクラスター担持によるLDHのOERにおける活性化機構を解明することに成功しました。

図1

図1 水を用いる電気化学反応

図2

図2 LDHの構造(左)およびTEM像(右)

図3

図3 OERにおけるリニアスウィープボルタモグラム(赤:Auクラスター担持LDHナノシート、青:ナノシートのみ)

Fig. 1
Fig. 2
Fig. 2

図4 Auクラスター担持LDHナノシート(Au/LDH-ns)、未担持ナノシート(LDH-ns)、Auクラスター(AuNC)におけるNi (a)、Fe (b) K端およびAu L3端(c)のXANESスペクトル

関連業績

S. Kitano, M. Yamauchi, 16th Korea-Japan Symposium on Catalysis, 2017

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